よろず屋小隊

映画、文学、時事、何でもござれ。

シン・ゴジラの面白さ

f:id:last-panzer:20160819231056j:plain

庵野秀明ゴジラを監督すると聞いた時、ゴジラが復活することへの期待と同時に、一抹の不安を抱えたものも多かったのではないだろうか。なにしろ庵野総監督はエヴァ新劇を事実上放棄してゴジラを手掛けており、脇には単独で監督をさせたら毎回悲惨な樋口真嗣である。そして東宝は安易な漫画の映画化や安易な若手の乱用に定評がある体たらくで、本当に久々の国産ゴジラとして、国内外に出せる映画が作れるのか、正直不安があった。しかし、公開されたシン・ゴジラエヴァすぎる部分が少し気になった程度で、総じてとても面白い「日本映画」として完成されていた。(大幅なネタバレはないが、一部の展開は書いてあるのでネタバレありということで)

<政治ドラマとしてのゴジラ

シン・ゴジラは良作の政治ドラマであり、迫力十分のゴジラ映画だった。本作は「政治映画」である。怪獣映画で半ばお約束になっていたマスコミ関係の連中や、しゃしゃり出てくるような子供は一切主要キャラとして登場せず、最初から最後まで、一貫して矢口をメインとする「官」が主人公である。「想定外」の国難に対し、官はどう動き、どう決定を下すのか。前代未聞の危機を相手に即座の行動も対策も出来ず、時間と被害だけが経過してゆく前半の展開に歯がゆさを覚え、国民を考え、知恵を出し合い、ゴジラに対処していく中盤以降に拍手を送りたくなる。もちろんこれらのストーリーには、先の震災を思わせるものがあるし、将来に何かの危機が起きたときに、同じことが現実で繰り返されるのではないかという危惧さえ抱かせる。

<リアルなシミュレーションであり、フィクション。或いはそのどれか>

「現実対虚構」 「ニッポン対ゴジラ

これが本作のキャッチコピーだが、正に現実と虚構の境界線を、ギリギリで成立させることに成功している。政府内のやりとりや外交はいかにもリアルである一方、ゴジラそのものは(2016年現在)虚構であるし、後半に展開される対ゴジラ作戦には、中盤までのリアルさが嘘のようなトンデモ攻撃が見れたりする。人によって前半までは現実、後半は虚構と見ることも出来るし、ゴジラを他のものに入れ替えてみればバリバリのシミュレーションとも見れるし、逆に全くの虚構として見ることも出来る。あの浮きすぎな石原さとみも、ある意味リアルと虚構のバランスをとっていると言えるかも知れない(シミュレーションというには浮きすぎており、人間側の虚構性を一手に引き受けている!)。説明過多で、一つの解釈を押し付ける某愛国エンタメなどに辟易している人にお勧め。本作を見た人が「語りたくなる」要因だろう。

<おじさんオールスター>

明らかに監督が意識したと思われるのが岡本喜八のオールスター映画(何しろ写真で出演している)。淡々と、膨大な登場人物たちが細かいカットの積み重ねで登場するのは『日本のいちばん長い日』『激動の昭和史 沖縄決戦』を思い出さずにいられない。男(おっさん)がガンガンアップで出まくり、女子供が殆ど出てこないのも昔のオールスター戦争映画にそっくりで、久々に黄金期の日本映画が復活した感がある。※無論余分な恋愛ドラマも、お涙頂戴もなく、ドライに日本の危機とそれに立ち向かう集団としての日本人が描かれる。そこに大きなカタルシスが現れる。近年日本は自信を失い、他のアジアと比較したり、或いは白人にテレビ番組で褒めてもらうような軽薄、低俗なことでしか自信を感じることが出来ないように見える。「シン・ゴジラ」は健全に、日本の人が自信を感じることが出来る映画と言えるのではないだろうか。石原さとみは確かに浮いているケド… 

※本作は製作委員会方式ではなく、事実上東宝の単独製作である。正に、黄金期のスタイルが復活できているのだ。

<シリーズ最恐のゴジラ、シリーズ最強の主人公「たち」>

 見た人に異論はないと思うが、本作のゴジラは正に過去最恐。東京中心部を一撃で火の海にするあの場面では「日本は終わってしまうのではないか」と二回目で見ても絶望的になる。派手な動きがなくとも着実に街を破壊し、人々の生活を吹き飛ばし、放射能もしっかりまき散らす。金子修介ゴジラの白目ゴジラも凄いが、単純な破壊力と威圧感では初代に並ぶものがある。圧倒される面白さがある。

 今回のゴジラにはオキシジョンデストロイヤーも、スーパーエックスも、対抗する怪獣も登場しない。官僚や学者のチームは、今出せるアイディアと技術力で最恐のゴジラに挑む。その様子はリアルであり、そして強い。個々の発言力や行動力、決断力には弱いが、そういう人々の集合体として発展してきた日本人の国民性の強さがそこにある。矢口というメインキャラはいるが、彼を含め膨大な登場人物すべてが主人公である。そのカタルシスは、最近の映画ではあまり味わえるものがない。先に挙げた「オールスター映画」の面白さでもある。

 

思わず色々と友達と語りたくなる、久々の大型邦画であり、映画館で見る価値が十分にある。サントラもよい。