よろず屋小隊

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西村晃二本立て!「悪の階段」「東京湾」

先日、新文芸坐で久々に邦画二本立てを見ました。

コロナ以来、楽しみにしていた007をはじめ新作映画の上映延期も相次ぎ、映画館に足を運ぶことはすっかり少なくなっており、直近で見たのは「シン・エヴァンゲリオン」のみという有様でした。そんな中、偶然に新文芸坐のツイートを見たところ、何れもDVD・配信無しの隠れた傑作「東京湾」「悪の階段」が、西村晃特集として久々に上映されるということで、万難を排して見に行った次第です。

 

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①悪の階段(1965年東宝鈴木英夫監督)

あらすじ:建設会社で知り合った4人組(岩尾=山崎努、下山=西村晃、熊谷=久保明、小西=加東大介)及び岩尾のパートナー、ルミ子(団令子)が、化学工場の給料4000万円を盗み出す。当局に怪しまれないよう、岩尾は半年間金には手を付けないとの条件をつけ、世田谷のはずれに偽装の不動産屋をこしらえ、地下室の金庫に4000万円を隠し、鍵で分けて持たせる。全員の合意無しには金庫は開けられない仕掛けだ。しかし早速、小西が大金に舞上がり、女に金を貢ぐ約束をしてしまう。岩尾に前倒しでの金を要求する加東だったが・・・

 

盗み出した4000万円を巡り、4人の男と1人の女が繰り広げる静かな争奪戦。表向きは一人1000万円を均等に渡すと見せながら、様々な方法で仲間割れを誘発し、取り分を増やそうとする山崎努、殺し担当の西村晃、最年少故の久保明の欲望への弱さ、愛すべきアホ丸出しの加東大介、どう出るか読めないルミ子が、偽装不動産屋で繰り広げる駆け引きに引き込まれます。

1965年製作ながらスタンダード・サイズ、モノクロの低予算映画ですが、ノワール映画にモノクロは実に合い、淡々としつつもスリリングな快作です。

 

東京湾(1962年松竹/野村芳太郎監督)

あらすじ:白昼の銀座で麻薬組織へ潜入していた捜査官が頭上から狙撃され、死亡した。現場証拠から犯人は左利きと推定され、捜査を担当するベテラン刑事澄川(西村晃)と相方の新人、秋根(石崎二郎)は都内を駆け巡り、犯人と思しき男、井上(玉川伊佐男)を見つけるが、その男は戦争中、中国戦線で澄川の命を救った男だった・・・

砂の器」「張込み」「八つ墓村」などで有名となる野村監督のサスペンス映画。如何にも野村監督らしく、戦後の混乱期で犯罪に手を染めざるを得ない人々の悲哀や、家族を顧みず捜査に没頭する刑事たちやその家族の悲喜こもごもの人間味、そして最大の見どころは低予算故の、都内全域でのオールロケーション撮影です。

白昼の銀座松屋前から始まり、浅草、千住、京成立石、青砥、地下鉄(営団/都営)、荒川沿い、秋葉原、品川駅、夜行客車列車内での終盤まで、犯人を追って都内全域を駆け巡る二人の刑事とともに、1962年当時の東京がありのままに記録されており、古い風景好きにはたまりません。

特にラストでは犯人の逃亡を防ぐため、刑事たちがその晩の長距離夜行列車を一本一本東京、品川、横浜の3駅で張り込む場面が登場しますが、時刻表や行先など、長距離夜行全盛期の国鉄の姿が登場し、鉄道マニアには溜まらない名場面といえるでしょう。

結末は現在みてもかなり衝撃的でした・・・

クレジット上の主演は石崎二郎という新人で、お世辞にも演技は上手くありませんが、事実上の主演である西村晃の圧倒的演技力でカバーされており、不器用な演技が逆にうまく作用したラストシーンが記憶に残ります。

 

しかし久々に映画館に行った感想として、35ミリ映画はやはり、映画館でのフィルム上映が圧倒的に素晴らしいですね。音も映像の情報量も、サブスクのHD画質と比較にならず、映画の世界に没頭できます。