よろず屋小隊

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【2015年映画振り返り】『スターウォーズ フォースの覚醒』と『スペクター』は評に困る映画である

最後に更新したのが4月末ということで、久々の投稿となります。残り少ない学生生活ということで、生き急ぐ毎日です。色々とバタバタした2015年もあっという間、皆様どうぞ良いお年をお過ごしください。

年末ということもあり、周囲で年間ベストを組まれる方も多々おります。ただ私は映画好きなものの、あまり映画館に頻繁に足を運ぶ人間ではなく、話題作を何となく見たり、ソフトが出てない旧作を名画座でやってる時に見に行く程度です(それでも世間一般よりは見ておりますが…笑)。

ただ今年は話題作の続編が豊作な年ということもあり、『セッション』『マッドマックス』『ジュラシック・ワールド』『キングスマン』(『海街diary』)『スペクター』『スターウォーズ』『ミッションインポッシブル』などの大作を映画館で観ました。

これらの中でも圧倒的面白さと熱狂をくれた『マッドマックス 怒りのデスロード』は周囲も絶賛の嵐で、特にここで言うこともない傑作ですが、年末興行の大目玉として前々から話題になっていた「007」と「スターウォーズ」シリーズの新作は相当の期待をして劇場に足を運び何とも「!???!?!?!」な感覚を覚えたので年末投稿のテーマにしようかと思います。見て困り、感想に困る大作ならではのジレンマを感じる作品であったのです。以下はある程度のネタバレを含みますのでご承知おきを。

 

【007 スペクター】

スペクターと言えばショーン・コネリーの時代に世界制覇を目指して大活躍した悪役界のスーパースターとも言うべき秘密組織です。そのスペクターとその頭領ブロフェルドが久々に登場する『スペクター』は007を紛いなりにも全作見た人間として期待をせずにはいられません。しかし、出来上がった作品は娯楽映画としての007の世界への回帰を目論見つつ、サム・メンデスの作家性を遺憾なく発揮した何とも中途半端な作品になっていました。『スカイフォール』と比較して大幅に増量されたアクションシーンは007の余裕を感じさせる場面もある反面、あの007がスマートに敵を倒せずボンドガールに大真面目に助けて貰うという衝撃的な場面もあり、時代の変化?を感じさせます(昔の『ロシアより愛をこめて』でも助けて貰ってはいますが、あれは場面自体がネタのようなものなので)。驚くべき大金を投じたボンドカーは自慢の秘密兵器が「作動しない」ジョークを披露し、殆ど活躍しないまま川に捨てられる始末。『リビングデイライツ』の小学生歓喜のメカてんこ盛りのアストンマーチンがフェイバレットの私としては何とも納得できません。そして期待したスペクターのボス、ブロフェルドは散々主人公を苦しめ、世界を破壊してきた組織のボスにしては迫力に欠ける人物で、犯行動機も限りなく陳腐。007のお約束である「殺せるチャンスがありながらボンドを殺さない悪役」ネタの数々は今回も健在ですが、かつての悪役たちにあったヘンな迫力とカリスマ性が無いために、不思議と違和感を感じてしまいました。何故か一発で爆発する敵の基地、何故か拳銃で落とせる敵のヘリなどは、往年の007のハッタリ精神の再来と言えなくもないですが、監督の演出がここでも真面目なので、イギリス的な余裕に欠けます。

周囲はおおむね『スペクター』を絶賛しています。特に007シリーズ、ダニエル・クレイグのシリーズを細部まで見てきた人にとっては連関性や小ネタも多く、楽しめるポイントには事欠きません。単に私の期待していたボンド映画とは若干違ったということに過ぎないのですが、シリアスなポイントやギャグの方向性の違い、悪役の貧弱さなどで十分に楽しめなかった映画です。主題歌も前作の方がよかったかなぁ…(*_*;

レア・セドゥは良かったです。

 

スターウォーズ フォースの覚醒】

オールドファンにはエピソード1から3までの新3部作は評判が悪いと聞きますが、幼少期にポッドレースに熱狂し(64のゲームを友達の家でやった)、エピソード3は劇場で見て、サントラを親に買って貰って聞きまくり、PS2のゲームをやり込んだ身としては新3部作を含めてスターウォーズは娯楽映画の頂点だと思っています。元々ルーカスの構想があったとはいえ、6部作ですっきり簡潔したサーガを再開すること、製作が「あの」全然ソフトじゃない権力とやり口で世界を支配しようとするソフトパワーの大御所、ディズニーということにはかなり不安がありました。しかし作る以上、あのシリーズのDNAを維持し、面白い映画を作ってほしいという期待はあり、ワクワクして見に行きました。

地元にある映画館、立川シネマシティは「極上爆音」という上映に拘っており、映画ファンを中心に人気となっています。マッドマックスでは全編席がプルプル震えるほどの重低音が響き渡り、映画館の面白さを感じさせてくれるマッドな上映を見せてくれました。『フォースの覚醒』も久々のテーマ曲が爆音で響き渡り、「はるかかなたの銀河系」に戻った喜びに浸りつくします。そして新たなる主人公、かわいいBB8、帰ってきたミレニアムファルコンの面々に興奮はマックス。「楽しめなかった」と言うのは大嘘で、大いに楽しみました。しかし、後半に行くにつれて十分に楽しめない箇所が出てきます。『スペクター』もそうですが、悪役の魅力不足は映画の面白さを決める上で重要な役割と言えるかもしれません。悪役と言うべきかは微妙なところですが、『セッション』のフレッチャー大先生、『キングスマン』の”ビックマック”サミュエル・L・ジャクソンなど、コワかったり笑える魅力ある相手役の存在が今年度の高評価作品には共通しています。本作の相手役、カイロ・レンは今後のエピソードで成長を見せ、ベイダー卿を凌ぐ存在になることが期待できる存在ではあります。しかし本作ではあまりにも強大な悪を思わせる登場場面と後半のショボショボな戦いとのギャップが大きすぎ、素顔が半端なく微妙なこともあって、次作以降の期待より見終わった後の不満が先に来てしまいました。また彼は強い悪になる為に乗り越える壁として「父殺し」を断行しますが、旧3部作に親しんだ身としては御大のご退場には落胆の色を隠せません。ハリソン・フォード町山智浩曰く、いつも「帰りたそうな顔」で演技をし、映画自体にはさほど関心のない人故に、もしかしたら本人の意向や高いギャラを製作陣が考慮した結果なのかもしれません。残りのエピソードで彼の穴を埋めるキャラクターが登場したり、或いは本作のキャラクターが補いうる魅力を得ていくことを期待する他ありません。

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戦闘シーンは技術の発達の結果、迫力あるものに仕上がっています。ただまたもや懲りずに登場する某人工星モドキとその攻撃シーンなどは旧作の焼き直しにしか見えず、展開が早すぎて節目不足の箇所は多々あります。フォースは間違いなく「覚醒」しますが、唐突すぎです。新兵器で哀れ吹き飛ばされた星々の言及が皆無とは(*´Д`)、何となくコルサントっぽい星があったり、非常に気になる部分ではあるのですが…

演出はルーカス時代とはだいぶ異なります。登場人物のアップが多く、頻繁に画面内を全力疾走します。昨今のアクション映画の撮り方を踏襲しており、時代の必然と言えばそれまでですが、スターウォーズサーガを特徴づけ、SW足らしめていた「風格」が本作に感じられません。スターウォーズは「遥かかなたの銀河系の御伽噺」です。ルーカスは神話、歴史もの、冒険もの、黒澤明、東洋的要素といった要素を自在に展開し、奇跡に近い手腕でSWの世界観を作り上げましたが、そこにあったのは神話としての風格と様式美でした。カメラは過度なアップやズームを意識的に多用することはせず、一定の距離からキャラクターをとらえ続け、どのような場面であってもジョン・ウィリアムズの丁寧な仕事の結晶が画面を支えて、ハリウッドの映画全盛期を思わせる安定感を生み出していたと私は考えています。20世紀フォックスのファンファーレがそれに一役買っていたのはいうまでもありません。『フォースの覚醒』には神話的な要素と風格があまり感じられず、「久々の新作ということでとりあえずウケそうな要素を一通り盛り込んでみました(フォーマットは最近のハリウッド大作で)」という感すらあります。ラストは最高にダサい空撮です。これは私的に全然ウケません。

本作でもウィリアムズが音楽を続投し、量産型のハリウッドスコアとは一線を画す、伝統的なスコアの力作を生み出しています。高齢や健康状態などで定番のロンドン交響楽団ではなく、アメリカのオーケストラで録音された音楽はロンドン響的な金管の響きが足りないこと以外は満足できる出来です。ただ過去作にあった作品を特徴づけるスコアがありません。旧3部作は言わずもがなで、EP1ではポッドレースのマーチ、運命の戦い、EP2ではアナキンとパドメの「愛のテーマ」(どことなく古い響きですね(^^;)、EP3では暗ーい決闘のテーマ曲など、それぞれのエピソードに一度聴いたら忘れられない名曲がありました。本作は見終わって印象的なスコアをいつものテーマ曲以外に思い起こせませんでした。テーマの焦点が定まらず、新規性と決定的な見せ場に欠ける本作を反映しているかのようにも感じられます。これまでに見たことがない何かを見せてくれるのが新旧問わずスターウォーズの魅力でした。観た覚えがある設定と物語展開、21世紀的なショットの数々はディズニー製の商業作品として申し分がないものの、神話としてのスターウォーズを一般的なSF大作の枠に落とし込んでしまった感があります…

不変と思ったことはSWの「役者殺し」なところくらいでしょうか。レイをはじめとし新たに出演した役者のみなさん、大変だと思いますが頑張って幸せになって下さい。次作では監督が交代すると発表されています。間違いなく見ると思いますが、期待より不安を感じながら足を運ぶことになりそうです。総括して新作の007とSWは世間的には人気が高く、人前で感想を言うのが非常に難しい作品でした。

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手短に今年の映画で楽しかった作品としては『マッドマックス』は言わずもがなで『キングスマン』。中盤の訓練シーンの中だるみ以外は最高の娯楽映画で、『スペクター』より全然楽しめました。『ミッションインポッシブル』の異常な安心感も否定できません。賛否両論ありますが『バードマン』の男女関係のヘンにリアルなところや視点の面白さは結構楽しめました(ラスト除く)。あとこれは別枠になりますがフィルムセンターでみた『東京暗黒街 竹の家』は相変わらず最高です。リマスター画質でよみがえった戦後8、9年目のカラーの東京の風景とヘンテコ日本の融合、骨太すぎて滅茶苦茶なドラマに惚れ惚れします。

逆にイマイチだったのは『海街diary』。原作は結構良いマンガと思いましたが、例によって無駄に湿っぽく、家族モノの暗ーい要素にグイグイ押し込んでいく是枝監督の作風には毎度ながらヘドが出ます。『ジュラシック・ワールド』の文脈を無視した衝撃的な展開の数々は最低脚本賞ものです。矛盾しますが助演男優賞は『ジュラシック・ワールド』のTレックスです←。『エクソダス』は若いころの北野武みたいなエジプトの王様が執拗にモーセの嫌がらせを受ける様はある意味面白いですが、SFX以外記憶に残らない凡作。最低は『バケモノの子』、見た覚えのある展開のごった煮が終始展開し、監督のケモノ愛だけが爆走するとてつもない駄作です。東宝はもう一本細田と組んで映画を作ることを考えているそうですが…

『イミテーションゲーム』『アメリカンスナイパー』はこちらにレビューした通りです。

 

新年はホラー「イットフォローズ」が面白そうなので、見ようかと考えています。SWの上映前に流れた『シン・ゴジラ』のあろうことかまたエヴァ色全開の予告編は不安以外なにも感じられなかったので、戦々恐々として公開を待ちます。ゴジラエヴァ的要素は持ち込まないでほしいような…

 

年の瀬に悪口ばかりで申し訳ありませんでした。

 

 

改めてみなさま良いお年をお過ごしくださいませ!