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これぞ「悪の法則」!『戦争プロパガンダ10の法則』

イギリスの政治家アーサー・ポンソンビーは、イギリスが第一次世界大戦時に行った膨大な質量のプロパガンダを目の当たりにし、戦後10年経った1929年に『戦時の嘘』という本を執筆した。その本に書かれた10の法則を、フランスの歴史学者アンヌ・モレリが解説するのが本書だ。戦争の際に、いや戦争以前以後にも渡って国家が吹聴するプロパガンダを分かりやすく学ぶことができる。一口に戦争を学ぶといっても個々の戦いや当時の政治力学、地理的民族的勢力図など色々な観点がある。これらの要素は状況ごとに千差万別であったりするが、戦争プロパガンダは場所や文化、人種を問わず常に登場する普遍的な仕組みなので、本書を読むことは戦争を知る上で非常に重要な第一歩となるはずだ。事実、ポンソンビーが『戦時の嘘』を出した1929年にも世界中でプロパガンダが吹き荒れていた。

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「われわれは戦争をしたくない」「敵の指導者は悪魔みたいなやつだ」「我々は領土や覇権を望んでいるわけではない」などなど、戦争について学ぶ際や見聞きする際に必ず登場するレトリック10個をモレリは古今東西の戦争を引き合いに出して検証する。

結果は言わずもがな。面白いことにどのような戦争でも例外は無く、10のプロパガンダは固有名詞だけ変えてあらゆる戦争に登場する。モレリは主にフランス、イギリス、アメリカ、ドイツ、NATOといった白人国家を検証例に引用しており、日本や中国などのアジアはわずかしか登場しない。だが第一次大戦、第二次大戦、ベトナム、アフガン、湾岸、コソボグレナダイラクでアメリカ、ドイツ、イギリス、フランス、日本、ロシア、ソ連ウクライナなどあらゆる国がこの法則を運用(悪用)している事実を突きつける本文は身も蓋も無く、ここまでくれば実に痛快だ。冷静に考えれば日本、韓国、北朝鮮、中国、台湾、インドネシアベトナムなどのアジアも10の法則を運用しているわけで、「我々は例外だ」とか言う時点で10の法則を実践してしまっているのだ。

ただこの本は単にポンソンビーの法則を検証するだけなのでボリュームも内容も薄い。本来はこの本の内容を端緒として、プロパガンダの応酬たる戦争の混乱の最中における人間の行動や政治についての研究、原因探求に繋がっていくべきだろう。

正直なところ、日頃から政府などのプロパガンダに関心を持っている人や、戦争における「正義」なんぞに疑問を抱く人、或いは筆者みたいにサウスパークとかシンプソンズが大好きな人にとっては「そんなのとっくに分かってたよ」レベルの内容。しかしネットなどに散らばる有象無象の情報に踊らされて「××の戦争で△△は悪いことを一切してないけど、○○は残虐非道なことばかりした」と本当に思ったりする人は一度本書でも読んで、自身の白痴ぶりを存分に理解するが良いであろう(そういう人たちはこういう本は一切読まないし、関心を持たないからあのザマなんだけどね!)。

現在も刻一刻と運用されている「悪の法則」(リドリー・スコットじゃないよ)を手っ取り早く学べる本書。高校か大学1年の授業で使うには最適だろう。160ページくらいで、文字も少ないため一時間やそこらで読めてしまう。暇な時や移動中の時間つぶしにオススメ。極上の時間つぶしになることうけあいだ。