よろず屋小隊

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『ウォール街』の皮肉 反道徳の輝き

名作と名高い『ウォール街』。オリバー・ストーン監督というと有名で評価も高いが、必ずしも一般受けする作品を撮るとは言いにくい。ベトナム戦争三部作にしても他のにしても若干観るものを選ぶ映画が多いと思うが『ウォール街』は誰が観ても実に面白い。株や証券に興味が無くても、知識が少なくてもキャラクターたちの騒々しい日常に釘付けになる。いい映画の共通点で脇役がよい。ウィリアム・ワイラーの映画で地下室で女を飼育したりと奇行でお馴染み(爆)のテレンス・スタンプの大物投資家も素晴らしいが、ハル・ホルブルックが出てるのが個人的にツボ。あまり有名ではないが『ダーティハリー2』の助演や、『ミッドウェイ』のチョイ役。実力はありそうでしがないオジサンを演じさせたら一品。

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ところでストーンは過剰な物欲への警鐘として作ったにも関わらず、若い観客層がマイケル・ダグラス演じる投資家に憧れて金融界に向かうという、間逆(!)の現象を生んだことを嘆いたそうだ。お気持ちは分かるが、そりゃそうだろう(ダグラスだし)。手段を選ばぬ物欲の権化は魅力的すぎる(ダグラスだし)。犯罪者や狂人同然の悪役は往々にして良心を持つ主人公よりかっこいい。映画を通して自分の奥底にある「現実では決して行わないけどやってみたいこと」を見出し、楽しむ観客の心理が働くのか。反道徳的(往々にしてそれは「動物的」と同義だ・・・まあ道徳の定義を始めたらキリはないですが)なことに引き寄せられるのか。

極論を承知で言うと、救いようの無いゴミ野郎ゆえに『仁義なき戦い』の山守は人気があるといえる。もっともそれはキャラクターが人間性を持っているのが最低条件であって、『私設銀座警察』の恒彦アニキみたく人間性を失ったモンスターだと観客も沈黙するほかない。

若干テーマが被る『ウルフ・オブ・ウォールストリート』は『ウォール街』を更に過激に俗物的にした映画だが、あのとんでもない主人公に憧れない男はいないだろう。最高の女に酒、家、金、車、とりあえず全部。アレでもマーティン・スコセッシはメッセージ性を込めた映画だと妙にしきりに説明していたが、明らかに楽しんで撮っているし、観客も楽しんでいる(笑)。何はともあれ、ダグラスのピカレスクロマンとしても一級だし、ダグラスに単細胞にも熱狂した当時の若者は見落としたのだろうが、ラストのマーティン・シーンの一言はそれ以上のインパクトを与える。人のモノ(金)を動かすだけか、それとも自分自身で何かを生み出すか。生き方をも考えさせられる、優れた娯楽映画。