よろず屋小隊

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12月8日、もとい『新・仁義なき戦い』

2月8日とは何の日か、と訊かれて答えられる若者は皆無な気がする。仮に答えてもネトウヨだったりするのだから救いようがないのだが、8日は日本海軍による真珠湾攻撃の日である。アメリカ時間だと7日なので向こうでは”December 7th”として語られるアメリカにとって「屈辱の日」、日本にとっては8月15日への道の始まりという重要な日な筈だが、専ら「終戦記念日」は派手に宣伝されてもこっちはピクリとも宣伝されない。さて筆者は基本的に8日は太平洋戦争に纏わる戦争映画、

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例年は『トラ・トラ・トラ』を見るのが毎年の勝手な慣わしなのだが、昨日はゼミの課題とか云々で残念ながら見れなかった。週末に見ます(笑)。

代わりに見たのが『新・仁義なき戦い』(爆)。明日返さないといけないからネ。

これは伝説の5部作のヒットに懲りずに東映が1作目を焼き直した代物。仁義シリーズ本家に及ばない完成度でも年間9位のヒットになっちゃうから不思議である。あまり良い評判を聞いてなかったのだがどっこい、普通に十二分に楽しめる娯楽やくざ映画である。文太がメクラの傷痍軍人のふりをして標的を襲撃する不謹慎極まりないオープニングから掴みは最高で、その後も山守(金子信雄)と青木(一作目で松方が演じたが、ここでは若山富三郎)の対立を中心に毎回出てくる面子によるお馴染みの抗争が展開する。毎回素晴らしい見せ場を持つ拓ボンは渡瀬にケンカを吹っかけて一瞬で目を潰され、田中邦衛はどこまでもオロオロし、若山アニキは松方の30倍くらいの貫禄と迫力で他の俳優を食い、梅毒末期でパーと化したエースの錠は当分忘れられそうもない怪演だし、池玲子はいつも通り魅力的だ。

普通に考えて良作なのだが、確かに見終わって本家5部作と比べるとどこか霞んでしまう。今回の12月8日にかこつけたみたいになってしまうが、どうも『新』には深作監督の戦争への強烈なアンチ・テーゼが欠けている。文太と池玲子演じる朝鮮ピー(朝鮮人売春婦。超蔑称)の話など盛り込める要素はあるのだが、実に中途半端で終わってしまう。暴力に生きる彼らを生んだ戦争という「暴力」の要素は冒頭くらいしかなく、個々の人物のバックグラウンドも薄いため、今一つ本家ほど入り込むことが出来ないのだ。広能改め三好の文太もキャラクターが描ききれず、ただのバイオレンス野郎と化している感はいがめない。

とは言っても余計な描写をすっとばして抗争に徹したノン・ストップ・アクション(広島弁)として見れば本作には何も問題はない。ちなみに何故か、池玲子が文太のところから飛び出した時に若山が言うセリフが一箇所無音になっている。どうも「朝鮮女だから気性が荒い」というようなことを言っているので、何かアレな表現なのだろう。(朝鮮ピーはOKなのだが・・・)東映はアレな表現でも音声カットはしない会社であるし、WOWOWで放映した時も同じだったということは残っている原版のフィルムから欠落しているのか、或いは何らかの事情が働いているのかもしれない。