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ブラッド・ピット主演『フューリー』を観て

皆様初めまして、LastPanzerと申します。これまでyahooブログさんの

Vamos a matar! 〜戦争映画データベース〜 - Yahoo!ブログ

に戦争映画を紹介していましたが、新たにブログを開設致しました。ここでは戦争映画のみならず他の映画、文学、果ては議論を呼びかねない時事、日常の出来事等々、色々な事を書いていこうと思います。よろしければお付き合い下さいませ。

 

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さて第一弾は不肖、Lastpanzerのライフワークと言っても過言ではない戦争映画の最新作『フューリー』。ブラピ主演製作ということもあって相当大規模に宣伝されている正に話題の作品といっても差し支えない。長く戦争映画を愛好する身として本作を劇場で観るのはもはや義務でしょう(笑)。

 

後述するように、本作はアメリカ戦争映画に新たな風を吹き込みましたが、作りとしては非常にオーソドックスな戦争映画と言って良い。物語に新鮮味はありません。あらすじを書いてみると

 

アフリカ戦線を戦い抜いた歴戦の兵士たちが乗る米軍のM4シャーマン戦車「フューリー」。厳しい戦いを生き抜き、強い絆で結ばれていた乗組員たちだったが、戦争末期の45年4月、副操縦士が戦死してしまい、戦車について何も知らない徴兵された若者が補充される。何も知らない若者は残酷な前線の様子に打ちのめされ、他の乗組員たちは最初は彼に冷たく当るが、戦いを経て若者は一人前の戦士になり、他の乗組員も彼を認める。しかし彼らはある任務に向かったことで、絶体絶命の窮地に立たされてしまう・・

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となり、往年の戦争テレビドラマ「コンバット!」の舞台を歩兵から戦車に移しただけと言っても差し支えない程にベタ。60分ドラマ「コンバット!」ではチームで団結するサンダース軍曹(ビック・モロー)の隊に時々戦争を知らない若者が補充で配属されて、レギュラーキャスト陣が嫌がる(笑)がエピソードの終わりには兵士として認められる、というお話がゴマンとある。むしろそういうお話ばかり。このプロットは「鬼軍曹モノ」などと時々言われる程に一般的。

 

ただそこは10年代の戦争映画。『フューリー』はそんなベタベタなプロットを採用しながらも、従来のWWⅡ映画が悉く見落としていた前線の要素を盛り込んだことで、全く異なるタイプの映画に仕上がっている。本作は映倫がG指定(年齢制限無し)にしたにも関わらず、通常ならPG12(12歳未満は保護者同伴)にされておかしくない表現がてんこもり。米軍基地では戦死者の死体をブルドーザーか何かで穴にズルズルと押し落とすもはや埋葬とは呼べない処理が行われ、戦車内部には肉片がこびり付いている。

 

ドン・コリアー軍曹、通称「ウォーダディー」は命乞いするドイツ兵を新兵に後ろから射殺させ、投降したSS将校を殺させ、或いは彼の部下たちも占領した町で女を買ったりする。これらは残虐、或いは非人間的ともとられる行為かもしれない。しかし日常にいる者がキレイ事を言っても「何れもが戦争の真実であり、前線の「日常」なのだ」ということを監督は観客に示そうとし、見事に成功したと言えよう。

 

本作が斬新なのはこれらの行為を第二次世界大戦のヨーロッパ戦線に描いたことです。第二次大戦は見方によってはアメリカ史上最後の「大義ある」戦争であった。朝鮮戦争も冷戦時代は正当化できたものの、各種激戦の被害は激しく、また勝利した戦争ではなく、ベトナム戦争や湾岸、イラク戦争が100%正当化できるものでないのは言うまでもないでしょう。しかし第二次大戦はドイツ、イタリアというファシズム国家が、特にナチが露骨に侵略を目的に始めた戦争ゆえに、WWⅡはアメリカにとって今日に至るまで正義の戦いと断言できるものになっている。

 

しかし、あまり語られないだけで、女子供を含めた国民全てが武器を取って連合軍に抵抗する対独戦の終盤に於いて、前線では映画のような出来事が無数に発生していた。ドイツ婦女子への暴行はソ連軍だけのものではなく、無抵抗軍人の殺害は枢軸軍だけの行為ではないという、語られないけど「あたりまえ」のことを本作は描いた、それだけでも相当に評価できる作品ではないだろうか。同様の経験を懲りずにアメリカは後にベトナムで経験するわけだが、『プラトーン』に始まり『フルメタル・ジャケット』『カジュアリティーズ』等の秀作が描いた前線描写の視点が、本格的にWWⅡモノに登場したという点では記念碑的と言えるだろう。イデオロギーや政治的立場から解放された(SS等のナチは極悪なんだけど、そこは否定しがたいので)戦場描写に酔いしれる。

 

あらすじがシンプルすぎる、起承転結という点でまとまりがない、等の批判も分かるが、そもそもに本作は作戦云々の「戦争」映画というよりは、欧州戦線のどこでも見られたであろう戦場の一風景を戦車兵の視点で切り取った「戦場」映画。若い読者←には伝わりにくいのを承知で「コンバット!」に例えるなら

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①サンダース軍曹の隊で一人戦死。補充兵が来るが戦闘経験皆無。困ったレギュラー陣。最初の戦闘で前線の真実を叩き込むお話。

②戦闘が終わり、解放に沸く田舎町での新兵と少女の仄かな恋(77話『小さな回転木馬』の様な)

③ヘンリー伍長に頼まれてある地点を防衛しに行ったら戦闘に(68話『戦車対歩兵』を逆にしたような)

いった約3話分のお話を2時間弱にまとめたようなモノ。『プライベートライアン』みたいなヘンテコな作戦でもなく、硫黄島二部作のようなスケールの大きい話でもありません。それ故にシンプルな戦争映画や往年の戦争映画ファンは物語という意味ではそれなりに楽しめる仕上がりになっているはず。まあラストの「アレ」はちょっとやりすぎかもしれない、アメリカ人の『アラモ』気質の普遍性を感じます(笑)。

 

さて本作は実写のタイガー重戦車が出てくるということで、ミリタリーファンの間でかなりの話題となっていました。理由は戦後作られた戦争映画で、実写の枢軸軍の戦車が出てくることが殆どなかったことにある。日本も同様だが、敗戦国は戦争の終わりにかけて多数の実写が戦闘で破壊され、戦後も軍の解体に伴って占領軍に接収された兵器のほぼ全てが破壊されました。戦争映画でドイツ軍の戦車を出す場合、多くは現役で使われている全く別の戦車に鉤十字のマークを書き込んだりしてドイツ戦車に「見立て」たり。或いはもう少し本格的なケースだと、別の戦車に鉄板を貼り付けたり、キャタピラを替えたりと改造を加えてドイツ戦車「モドキ」を作って登場させるのが殆どでした。

 

戦後直後の作品などでは稀に正真正銘のドイツ軍戦車が登場する『撃滅戦車隊3000キロ(イギリス映画)』『第一空挺兵団(イギリス映画)』『戦車旅団(チェコ映画)』などはあったものの、ごく少数な上につい最近まで敵国だった戦車故か、殆どアップで登場することはなく、後ろでチロチロ走り回ったり、すぐ撃破されたりとまあ酷い扱い。その点第二次大戦終結から70年近く経って作られた『フューリー』は、博物館に保存されている実働する実写を、これまでの不甲斐無い扱いではなく主人公たちアメリカ戦車に対峙し、苦しめる最強の敵として登場している点でそれだけでも涙モノの映画でしょう。そんなわけで中盤に展開されるホンモノのシャーマン戦車4両VSホンモノのタイガー戦車の戦車は有無を言わせぬ説得力と迫力があります。

 

そんな訳でLastPanzerとしては戦争映画ファンは義務として(笑)、アクション映画好き、男性にお勧めできる作品。(女性にはあまりお勧めできません、デートで行くとか論外)

しか~~~~~~し!残念ながらいくつかのポイントには大幅なマイナスポイントを付けなければならない。

<マイナス面>

①レーザー光線

撃った弾の弾道が分かるように、5発に1発混ざっている銃の曳航弾の光が緑色のCG。一応忠実に再現したんだろけどどうみてもスターウォーズとかのビーム。おまけに大分実写映像の中で「浮いて」いてCGバレバレ。コレジャナイ。

②ドイツ側がタイガー「しか」出てこない。

一応冒頭のスクラップの中にはパンター戦車やⅣ号は出てくるが、中盤の戦闘以外で主人公がドイツ戦車と戦闘するシーンがないので実質タイガー「のみ」。タイガー出てくるだけでお宝なんだけど、もう少しドイツ車両が見たかったという希望。ハーフトラックも一瞬出てきたがその後行方知れず。なぜか田舎町にシュビムワーゲンが止まっているのは良かった。

③主人公(&プロデューサー)補正

ブラピの別格的扱い。ご自身でご確認ください(笑)。

<良い点>

①お話がシンプルでよい

②キャラクターの描き分けがよい

③戦車描写が素晴らしい

④やたらと殺す戦場描写も素晴らしい

⑤映画「バルジ大作戦」とゲーム「Call of Duty・World at War」を掛け合わせたようなエンドクレジットがカッコイイ

 

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