よろず屋小隊

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”劇薬”エンタメとはこういうものだ 李龍徳『死にたくなったら電話して』

まるで自殺を食い止めるお話みたいだが、間逆である。この題名でいいのか、と疑問に思う反面、この題名で大正解とも思う、絶妙なタイトルチョイス。表紙イラストが微妙なのが残念。

ツラだけはそこそこ良いが実に冴えない三浪男と、キャバ嬢の出会いと同棲、そしてとてつもなく変わっている彼女と過ごす内に変わっていく男。だが変わったのは男だけではない。やがて物語は現代の心中モノの様相を呈していく・・。色々な女と付き合った経験があるイケメン三浪男が、大して口も上手くないのに女とソッコーで関係を持ってしまう導入部は不快以外の何物でもない(嫉妬以外の何物でもないです)が、2人の関係が深まってからは一気に読ませる。女流作家が死んでも書くことのできない小説だろう、あまりにも男が書いた小説だ。これは弱点でもあるが、ゆえに男性読者には心地よい。前半部はメンヘラ女に溺れる生活、共依存とはこういうものなのだろうか、と勝手に想像してしまう。後半は後半で壮絶な破滅が展開するが、全編に渡って実に淡々としているのが清々しい。

 

多くの読者はこの2人に大幅に感情移入することはあまりないと思う。だが恐ろしいことに私は主人公の男にも、初美というキャバ嬢にも共通点を見出してしまう。先日「劇薬エンターテイメント」と宣伝されている中島哲也の『渇き。』を見たが、あんなのとは比にならない。人によっては真の”劇薬”成り得る本ゆえに、何か人生に渇きを抱いていたり、鬱屈、自己嫌悪、ルサンチマンを抱える人は読むべきである。そして絶望するのだ。色々と拗らせると筆者のように、2人の破滅的関係に憧れさえしそうになるが、結局かくの如き御伽噺は御伽噺、生きていかねばならないと思わせる辺り、並々ではない小説である。なお筆者は『仁義なき戦い 広島死闘篇』の大友の名言

「わしらぁ、うまい飯食って、マブいスケ抱くために生まれてきたんじゃないのぉ」

座右の銘なので(爆)、自分で死ぬなどとんでもないという考えの持ち主だが、コレはコレでいいものだ。

 

なおマニア御用達の名作『ナイトメア・シティ』を見ながら書いております(笑)。何度見てもこのダラダラした破滅ストーリーはクセになるのですよ。画像左はゾンビ隊の襲撃を全く緊張感のない顔で見つめる大根役者(褒め言葉)ヒューゴ・スティーグリッツ。チプリアーニサイコー、レンツィサイコー。

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